浄土真宗本願寺派 瀧上山 善立寺

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住職の法話

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第十四代住職 松岡 文昭の法話風景画像

七里和上(しちりわじょう)と伊藤忠兵衛(いとうちゅうべい)氏

 以前、善立寺だよりで、「させていただきます」という語源について、浄土真宗の教えに生きた近江商人が使われたことに始まるという話を紹介しましたが、その近江商人を代表する篤信(とくしん)のご門徒、伊藤忠商事・丸紅の創業者、伊藤忠兵衛氏と善立寺と血縁のある方との繋がりを発見しました。
 その方とは、九州博多の萬行寺(まんぎょうじ)、七里和上(しちりわじょう)(一八三五〜一九〇〇年)です。善立寺の先代、松岡恒雄(つねお)の父、恒之(つねゆき)は、萬行寺で生まれていますが、その祖父にあたる方が七里恒順(ごうじゅん)和上です。その昔、萬行寺には、和上の法話を聴くため、全国より人々が集まり、お寺の付近には数十件の旅館が建ち並んだそうです。
 そのような中、伊藤忠兵衛氏は、十五歳の時から持ち下りの商いをしておられ、博多で七里和上と出会い、教化(きょうけ)を受けたことで、後の忠兵衛氏に、大きな影響を与えたと言われています。『七里和上言行録』に、  京都の呉服商伊藤某氏。かつて和上に対して、「私はご承知の通り商法家であります。したがって商売する間にはずいぶん難しい人を相手に致し、つまらぬことにも煩悩を起し、無用のことに腹を立て欲にとらわれ、まとはれることがあり、それがためには御法義(仏法を聴聞すること)も自然留守になります故、こんな嫌な商売をやめ、江州(江州は本宅、京都・博多に呉服店あり)の家に帰って百姓となり、田畠を耕しながら法義(仏法)三昧で世渡りが致したいと考えます。」と相談した。
 和上はこれを否定して云われた。「それは悪い、お止めなさる方がよろしい。成程難しい商売をやめ、地方に帰って百姓となれば、最初は思うようにお寺参りも出来るけれども、しばらくすれば元の木阿彌。鋤鍬をとる農業の一々が煩悩を起す助縁(きっかけ)となり、御法義相続(お聴聞し続ける)の出来ぬ点はいずれか解からぬこととなる。のみならず商売すれば、多く気をつかい、はげしく煩悩を起す故、御法義相続の妨害になるには違いはないけれども、それが刺激となり、却って御相続の出来易いものである。
 山奥より材木を流すに、谷川の曲がった狭い流れを落すときは、成程石や岩に当たって、曲がり角にぶち当たって中々流れにくい。けれども、その岩や石にあたる度にそれが刺激となり、突き当たりてはその反動力で流れ、流れては突き当り、割合早く流れる。それを広い平面の障りのない川に流すときは、何等の障害もないかわりに、一向らちがあかぬ。穏やかな川よりも、石や岩の多い谷川の方が、材木が早く流れると同じく、難しい人を相手に商売する間は刺激が多いから、一事一物ことごとく助縁となりて、御相続がしやすい、それを田舎に帰って百姓となれば、激しく心も使わず、安楽に暮せるから、刺激が少くなると同時に御喜びも起りにくい。」と諭され、一層、聴聞に商売に精を出されたとのことです。
 とあります。お念仏の教えに生きた忠兵衛氏の問いに、山より材木を流す喩えを用い、商売で難しい人を相手にして、困難にぶつかることもあるが、それが助縁ともなり、仏法をお聴かせいただくご縁につながるというのです。
 私自身も、時間に追われる苦や、色んな不安を抱えています。しかし、何の苦労もなく心配もなければ、幸せに過ごせるかといえば、そうでもないのではないでしょうか。辛いことがあって喜びも増し、悩みがあって力となり、不安があるから頑張れることもあるのではないかと、受け止めるようにしています。
 そして、忠兵衛氏は、店にお仏壇を安置し、店員さんには、お念珠と正信偈(しょうしんげ)の本を与え、朝晩のお参りを欠かさず勤め、時には名僧の方々を招き、店員さんやお得意さん、知人が集まる法話会を開いていたそうです。そんな忠兵衛氏の経営理念の中心に、仏教精神を垣間見ることができます。
 そのようなことを春季永代経法要の時に話をさせてもらい、先々代、恒之住職が萬行寺から持ってきた『七里和上遺弟寄書』を見てもらいました。その話を聞いた総代さんが、現役時代、伊藤忠商事の本社に出入りしていた時、会社にお仏壇が置いてあるのを不思議に思っていたそうで、なるほど、そういうことだったのかと仰っていました。

(住職 松岡文昭)