浄土真宗本願寺派 瀧上山 善立寺

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住職の法話

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カラスの威嚇(いかく)

 今年の五月二十日頃より、寺の南側の歩道を歩いてこども園に向かう途中、妙にカラスの鳴き声が気になります。どうやら私を狙っているような気配を感じます。以前、寺の北側にあるお墓を歩いている時、後から突然頭を叩(たた)かれた記憶が蘇り、恐怖を感じました。カラスは鳥類の中でも特に知能が高く、道具を使いこなしたり、いたずらをする事でも知られています。

 しかし、今回は毎日威嚇をしてきます。しかも、寺の勝手口を出た瞬間、勢いよく鳴きながら、つがいと思われる二羽のカラスが私の上を低空飛行で接近してきます。そして、寺の南側の歩道に出てこども園に向かう途中、電線の上を移動しながら、激しい威嚇に加え、糞まで落としてきます。ついには、傘を差してこども園に通う事になりました。

 そこで、インターネットでカラスの攻撃について調べてみると、三月〜七月頃までが繁殖期で、四月〜六月頃は人への攻撃が多くなり、威嚇は、「繁殖している成鳥が、巣にいる雛や卵を守ろうとする行動で過敏になっている為、巣の近くを通る人を威嚇したり、時には足で頭を叩いたりする」と、書いてありました。

 その時期は、ちょうど境内の中にあった旧園舎の解体を行っていて、その南側の木の上にカラスの巣があり、カラスにしてみれば、縄張りの中で工事をしている危険な主、私を敵と見なしてひどく警戒するのは、当然の事なのでしょう。私は、この威嚇が始まってから、カラスを空気銃で追っ払えないものかと考えていましが、我が子を守り育てる為、必死の行動であった事を知り、親の恩を考えさせられました。それからは、傘を差して、いのちの育みを見守る事にしました。

 親の恩といえば、「親思う心に勝る親心」、「父の恩は山よりも高く母の恩は海よりも深し」等の諺(ことわざ)がありますが、私がよく法話の中で紹介させて頂く言葉があります。それは、真宗大谷派の名僧、暁烏(あけがらす)敏(はや)師の「十億の人に十億の母あれど わが母にまさる母あらじ」という言葉です。

 この詩では、母に限定していますが、私達にとって我が母というのは、誰にも勝る特別な存在であるという事です。いつでもどこでも、どのような事があっても私を見守ってくれている母。この世を去ったとしても、この身を案じてくれている温かい母は、いつまでも私たちの心の中に生き続けています。そして、浄土真宗のご門徒は、阿弥陀如来さまのお慈悲と親心を重ねて、阿弥陀さまの事を「親様」と拝み、大切にしてきました。

 しかし、今日では親子関係が必ずしも良いとは言えません。子どもを虐待して、いのちが奪われてしまう事件も後を絶ちません。加害者もまた、愛情を知らないまま育ってしまった被害者なのではないでしょうか。

 少年法改正の議論について、新聞の記事の中で、「非行の背景には、虐待などの家庭環境や障害などもある」とあり、元少年院長の矢田次郎さんは、「立ち直るには、心配してくれる人がそばにいることが重要」と話されていました。 誰においても、自分の事を大切に思い、心配してくれている人との出会いが必要です。人と人の間にある人間、家族であったり、友人であったり、教育機関、福祉施設であったり、寄り添う事の出来る人が必要です。そして、摂取不捨(せっしゅふしゃ)の阿弥陀さまのお慈悲と親心が重なり合う、人間社会であり続けてほしいと願います。

 この夏は、カラスの威嚇によって、改めて父母の恩、そして阿弥陀さまのお慈悲を喜ばせて頂く機会となりました。カラスの被害に苦労している地域もあるようですが、カラスが人間をくちばしで突き、怪我をさせる事はないそうです。その点は、皆様もご安心ください。


十億の人に十億の母あれど わが母にまさる母あらじ 暁鳥 敏

(住職 松岡文昭)